現代の声優業界は、極端な二極化が進んでいる。アニメの本業であるアフレコ報酬は、新人や中堅層にとって極めて低く抑えられている。一方で、人気が出ればライブやイベント、キャラクターソング関連で桁違いの収入が得られる。このギャップがあまりにも大きいため、多くの声優が二重生活や人格の切り替えを強いられているのが実情だ。まさに、二重人格にならざるを得ない構造が、そこには存在する。アニメ1話たった1.5万円という現実。日本俳優連合のランク制に基づくアニメ出演料は、長年ほとんど変わっていない。新人ジュニアランクの場合、30分アニメ1話あたり一律1万5千円。これは主役であろうが端役であろうが、1話中ずっと喋り続けようが一言だけだろうが、同じ金額だ。ジュニアランク(デビュー後約3年間)は1話あたり15,000円固定。
ランカー(ランク15から45)は15,000円から45,000円まで、1,000円刻みで上昇。
ノーランク(超ベテラン・トップ層)は交渉次第で青天井。ただ、ごく少数である。仮に毎クール(約3ヶ月・12話)レギュラーで主役を張れたとしても、ジュニア時代は
15,000円×12話で18万円。
これが3ヶ月分の収入だ。事務所手数料(20から30パーセント程度)や税金、交通費、レッスン代などを引けば、手元に残るのは10万円前後になることも珍しくない。しかもアニメは毎週収録があるわけではなく、1クールで終われば次が決まっていないと収入ゼロの月が続く。多くの声優が「アニメだけで食べていくのは不可能」と口を揃える理由はここにある。たとえ人気作のメインキャストになっても、アニメ本業だけでは生活が成り立たないのだ。一方でライブ・イベントは数百万円の世界。ところが、同じ声優がアイドル声優としてライブステージに立つと、状況は一変する。人気声優ユニットや2.5次元ミュージカル、ソロライブの場合、1公演あたりのギャラが数十万円から100万円超になるケースが普通にあると言われている。特に『ラブライブ!』『アイドルマスター』『あんさんぶるスターズ!!』などの大型コンテンツでは、トップクラスの声優だと1公演あたり100から300万円という推定も出回っている。さらに、
チケット販売、
ブルーレイ・DVD売上、
キャラクターソングの印税、
グッズロイヤリティ、
ライブビューイング配信権。これらが加わると、1回のツアーやフェスで数千万円単位の収入になる声優もいる。アニメ1クール分のギャラが数万円から数十万円の世界から、一夜で数百万円が動く世界へのジャンプだ。二重人格を強いる構造。この極端な収入格差が、声優に二重人格を要求する最大の要因になっている。アニメ収録の自分。
低予算・低ギャラの世界。
早朝から深夜までの長時間収録、セリフ量に関係なく固定額。
「好きなアニメだから頑張る」「キャリアのため」と自分を納得させながら、割に合わない労働をこなす。ライブ・アイドルの自分。
高収入・華やかな世界。
数万人規模の会場、ファンの熱狂、スポットライト、物販収入。
ここでは「キャラクターそのもの」として振る舞い、歌って踊って笑顔を振りまく。この二つの顔を使い分けるためには、精神的なスイッチの切り替えが不可欠になる。アニメ現場では「職人として地味にこなすプロ」、ライブでは「アイドルとして輝く存在」。人格を切り替えないと、どちらの現場でも破綻してしまう。しかも、この二重生活は「人気が出れば出るほど」激しくなる。
アニメで知名度を上げなければライブの仕事は来ない。
でもライブで稼がないと、アニメの低ギャラでは生活できない。結果、多くの声優は「アニメの自分」と「ステージの自分」を明確に分離し、まるで別人格のように演じ分けることを余儀なくされる。SNSやラジオではさらに「ファン向けのキャラ」を演じ、三重・四重人格状態になる人も少なくない。結論。業界が作り出した適応戦略。声優が二重人格にならざるを得ないのは、個人のメンタルが弱いからでも、欲が深いからでもない。
業界の報酬構造そのものが、そうせざるを得ない状況を作り出しているのだ。アニメ業界は低予算で回さざるを得ない。
でもファン経済は巨額のマネーを生み出せる。
その落差を埋めるために、声優個人が人格を複数管理するしかない。これが令和の声優業界の、悲しくも現実的な姿である。
「アニメ1話1.5万、ライブで数百万円」という数字は、ただの金額ではない。
声優という職業が抱える、構造的な矛盾の象徴なのだ。
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